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テクノロジーと旅行の融合

「私たちを人間たらしめているのはどのような性質なのか。旅行に大きな変化をもたらす可能性のあるこの新しいテクノロジーを有効活用したいと思ったら、私たちは何に力を入れる必要があるのか。旅行業界は基本的に、今も非常に人間的な業界です。なぜなら、現時点では旅行ができるのは人間だけだからです」

イェオ シュウ フーン氏

Web in Travel、創業者兼マネージング ディレクター


配信内容


これからの旅行におけるテクノロジーの役割が注目の話題となっています。このエピソードではこのテーマを深掘りしています。Web in Travel のイェオ シュウ フーン氏をゲストに迎え、MC のリチャード コッカーとブランドン エアハルトがお届けする話をお聴きください。この業界におけるテクノロジーの急速な進歩について語ります。

 

「旅行ビジネスをサポート」の今回のエピソードでは、Expedia Group における旅行分野でのさまざまな AI 活用についてお伝えします。AI を活用して、お客様が実験的なベータ版商品を見つけ、試すことができるように支援する EG Labs もリリースされました。また、シュウ フーン氏とリチャードは、旅行の要素の中で人間が介在するほうがよいものについて掘り下げ、テクノロジーによって人間の体験を向上させる方法を議論します。

 

このエピソードをお聴きいただくことで、業界内部から見たイノベーションについての予測、進化し続ける業界についていくためのヒントなど、旅行テクノロジーに関する新しい視点が得られます。


トランスクリプトを読む


[00:00:04] ブランドン エアハルト 旅行サービス提供会社は旅行体験を支える存在です。「旅行ビジネスをサポート」の新シーズンでは、ビジネスを牽引する皆様が旅行体験を進化させ、高め続けられるよう、業界トレンド、注目トピック、実用的なアドバイスを紹介していきます。お聴きのポッドキャスト「旅行ビジネスをサポート」は Expedia Group がお送りしています。私はメイン MC を務めるブランドン エアハルトです。今回のエピソードは興味深い対談です。それだけでなく、グローバルな視点で過去を振り返り、テクノロジーと旅行の未来に関する独自の意見が交わされます。本題に入る前に、ゲスト MC をご紹介しましょう。熱心なリスナーの方はもう 2 回はこの声を聴いているでしょう。聴き逃している方は残念です。今回は再びこの方の登場です。リチャード コッカーです。今回も MC に加わってくれています。今日の調子はどうですか。

 

[00:00:53] リチャード コッカー とてもいいですよ。ありがとうございます、ブランドンさん。MC としてこちらに参加できて嬉しいです。業界のエキスパートとお話しできる絶好の機会です。特に今回のゲストは素晴らしい方ですから。

 

[00:01:02] ブランドン エアハルト そうですね。初めてお聴きの方には、次の 2 点をお願いいたします。まず、登録ボタンをクリックしてください。次に、リチャードについて知っておいてください。リチャードはメディア インサイト アンド プラニングのシニアディレクターです。データに向き合い、インサイトを抽出するのが主な仕事です。リチャードさん、ご自身のお仕事については私よりうまく説明できるはずなので、少しお話しいただけますか。

 

[00:01:21] リチャード コッカー はい。この仕事には 2 つの側面があります。世界中の各地域のパートナー様と連携し、マーケットの動向に関してデータやインサイトを提供して、世界の旅行状況に関するトレンドをお伝えしています。また、エクスペディアとお取引いただく多数の広告パートナー様のためにキャンペーン戦略や計画の策定を行っています。このように主に 2 つの業務があり、パートナー様と実施するマーケティングキャンペーンのパフォーマンスに関するレポート作成なども行っています。

 

[00:01:45] ブランドン エアハルト リチャードさん、データに向き合いインサイトを抽出するあなたのお仕事については、別のエピソードがありますが、本当に興味深い話です。このお仕事についてもう少し教えていただけますか。

 

[00:01:55] リチャード コッカー はい。予約プロセスについてシェリルと話したエピソードがありますが、そのインタビューは考えさせられる内容でした。時間とともに変化してきた旅行のトレンドについて考えるうえで、新しい考え方を与えてくれました。いつも面白いものです。皆さんは未来を見据えて、これから何があるのかを考えていらっしゃると思いますが、今日のゲストとのお話では、業界のベテランから非常に参考になる見解を伺うことができました。過去を振り返り、未来を見据えた素晴らしいインサイトです。

 

[00:02:19] ブランドン エアハルト 素晴らしいインサイトと優れた見解ですね。テクノロジーと旅行業界の経験方法なベテランの見解を伺えるのは楽しみです。シュウ フーンさんについてもう少し教えていただけますか。

 

[00:02:30] リチャード コッカー はい。イェオ シュウ フーンさんはアジア太平洋地域の旅行産業について長年取材をされている方です。新人記者からキャリアを始め、地域の重要な業界メディアタイトルを責任者としてスタートさせています。2005 年に Web in Travel (ウェブ イン トラベル)、略して WiT を創業され、テクノロジーによるアジア太平洋地域の旅行の変化に向き合ってこられました。WiT 創業当時のお話も伺っています。彼女は時間をかけて WiT を新たな場所へと展開し、東京、ソウル、中東、ヨーロッパへと乗り出して、アジアにおける旅行テクノロジーの 3 本柱に世界の注目を集め続けています。2014 年のノーススター トラベル グループによる買収後、彼女は責任者として Travel Weekly Asia と MNC Asia を開始し、編集チームを編成してノーススターのアジア参入を実現しました。彼女の業績はさまざまな機関に認められており、たとえばシンガポール政府観光局は 2014 年を代表する Tourism Entrepreneur (観光業起業家) として彼女を選出しています。WiT シンガポール カンファレンスは現在も同社の重要なイベントであり、Most Innovative Marketing Initiative (最も革新的なマーケティング イニシアティブ) や Trade Conference of the Year (年間最優秀トレード カンファレンス) を始めとするいくつもの賞を受賞しています。シュウ フーンさんは旅行関連記事の執筆のほかにも、複数の書籍を執筆、出版し、「The WiT Podcast」と「A Life in Travel」という 2 つのポッドキャストで MC を務めています。

 

[00:03:36] ブランドン エアハルト そのような方と直接話をする機会に恵まれたとは羨ましい限りです。リスナーの皆さんも待ちきれない思いでしょう。それでは、リチャードさんとイェオ シュウ フーンさんです。

[00:03:50] リチャード コッカー シュウ フーンさん、旅行テクノロジーの黎明期について少しお話を聞かせてください。2000 年代初頭に Web in Travel を創業され、Web in Travel は旅行のテクノロジー、流通、マーケティングを中心としたニュースの発行、イベントの開催、コンテンツの制作を続けてこられました。Web in Travel 創業のきっかけは何でしたか。

 

[00:04:06] シュウ フーン Web in Tavel の創業は、正確には 2005 年でした。この事業を始めたのは、テクノロジーによって顧客行動がどう変わるのか、その変化に対応し、新規顧客獲得に向けて適応するために旅行サプライヤーにはどのような対策が必要なのかに興味があったからだと思います。新しい顧客行動への対応ですね。始めは好奇心だったと思います。特にアジア太平洋地域の旅行者の行動がテクノロジーによってどう変わっていくかを知りたいと思いました。アメリカやヨーロッパで行われた調査は目にしましたが、アジア圏の調査は非常に少なかったのです。それで知りたくなりました。それが始めた理由だと思います。

 

[00:04:56] リチャード コッカー そうなのですね。2005 年当時、テクノロジーによる旅行関連の顧客行動の変化について、どのようなトピックがあったのでしょうか。当時特に気になったのはどのようなことでしたか。

 

[00:05:08] シュウ フーン 古い人間だと思われそうですが。当時はインターネット黎明期でした。何ができるのか、トラベル ジャーナリズムにどう利用できるのか、インターネットを活用するにはどうしたらよいかを模索している段階でした。これによってすべてが大きく変化し、メディアそのものやメディアとオーディエンスの関係性が変化して、大きな場が生まれると思われたからです。本当にまだ黎明期でした。当時の調査結果などはないと思いますが、私の記憶では、オンライン旅行予約の普及率は 10% にも満たなかったと思います。新興企業が出始めたばかりの頃でした。エクスペディアでの予約が始まったのは 1990 年代後半でしたね。アジアでいち早く動きが出始めたころで、MakeMyTrip や Cheeno が 2005 年の創業でした。WeGo も 2005 年に始まっています。こうした先駆的な企業が出てきていました。本当に始まったばかりの頃でした。当時のトレンドということですが、いろいろなことが動き始めたすべての始まりの時期だったのです。大きなトレンドなどはありませんでしたが、オンラインへのシフトが起きていました。私もその流れに乗りたいと思っていました。

 

[00:06:30] リチャード コッカー そうですね。オンラインによって、世界中の人が旅行しやすくなったと思います。

 

[00:06:36] シュウ フーン はい。販売や提供だけではありません。オンライン旅行はそれだけに留まらず、インフラストラクチャそのものです。旅行がオンラインになり、格安航空会社が登場し始め、旅行が大衆のものになっていきました。この旅行の大衆化はすでに見られていました。格安航空会社の登場や宿泊業界の細分化、現地ツアーやアクティビティを取り扱う新興企業の増加などです。まさに、あらゆるものが誕生し、始まった時期でした。

 

[00:07:09] リチャード コッカー はい。旅行テクノロジーを考えるうえで、当時の進化と人間の行動を中心にまとめてくださいました。その点を改めて取り上げたいのですが、そうした黎明期を振り返り、現在の状況を考えた場合に、あなたの旅行の取り上げ方はどう変わりましたか。2005 年当時と比べて変わらないことは何ですか。

 

[00:07:27] シュウ フーン WiT の創業から 20 年近くになります。10 年でも物事は変わりますから、20 年ではさまざまなことがありました。しかし、最大の変化はオンライン化が加速したことです。そうですよね。現在は、APAC 全体で 50% 程度でしょうか。創業当初は本当に大変だったことを覚えています。このオンライン化の動きが進むこと、Web in Travel に参加すべきだということを納得してもらうのは本当に大変でした。今ではそのような説得もほとんど必要なくなっています。これは非常に大きな変化ですね。しかし当初は、足取りも重く、時間がかかって大変でした。当時、友人に「シュウ フーン、本当にこんなことがしたいの」と言われたことを覚えています。出版社での安定した正社員の仕事を辞めたからです。当時は論説員として 5 つの出版物に関わっていましたが、それらをすべて手放して新しい道に進んだのです。「おかしいんじゃない。でも、食べるものに困ったら、いつでもうちに夕飯を食べに来てね」と言われました。本当に破産しても、自分には友だちがいると思うとずいぶん安心しました。実際にそうならなかったのはありがたいことです。それでも最初の頃は、納得してもらうのは困難でした。旅行会社は旧態依然としていました。しかも、アジアは本当に幅があります。シンガポールは進歩的ですが、インドネシアはかなり遅れています。そしてベトナムです。非常に細分化されていて、水準が異なります。そこが課題でした。同時に面白いところでもありました。とても面白かったです。変わったことと言えば、現在ではニュースのペースがはるかに加速しています。本当にたくさんのことがあり、さまざまなことを扱う必要があります。チームも大きくなっています。本当にそうです。ニュースのペースが変わりました。そして、新興企業が参入してきています。ニュースの量が変化して膨大になり、トピックも大きく変化してきています。本当にそうです。企業の顔ぶれにも変化があります。以前、初期のころは、取材相手は大手企業ばかりで、エクスペディアのようなブランドや、ホテルチェーンのインターコンチネンタル、ヒルトンなどでした。現在ではエコシステムに関わる人が増え、取材相手が増えています。現在の段階では、はるかに豊かに面白くなっています。現在のアジア太平洋地域の多様性とダイナミズムが反映されています。

 

[00:09:53] リチャード コッカー 少しお話にありましたが、出版社を辞めて、Web in Travel を創業されたということですね。務めていらしたのは、従来の形での印刷出版の会社でしたか。

 

[00:10:04] シュウ フーン そうです。旅行業界向け雑誌を発行していました。読者は旅行代理店やサプライヤーなどでした。私はそこで編集者をしていた当時、オンラインに少し手を出し始めていました。私たちはテクノロジー分野にいち早く進出し、他社に先んじてウェブサイトを作っていましたが、そのスピードはあまりに遅く、私は我慢しきれなくなりました。そこで、自分で動いたほうがよいと思うようになりました。そうすれば、マーケットの変化についていけるように自分のペースで進めるからです。

 

[00:10:40] リチャード コッカー なるほど。新聞業界はある意味で時代を映す鏡のようなものですが、2000 年代初頭から中頃の当時を振り返ってみると、多くの大手新聞社がオンラインへの移行を始め、世界中で読者を獲得するようになり、その分野で効果を出し始めた時期でした。取材対象の変化についてのお話がありましたが、あなたがお気付きになった転機はありましたか。オンラインコンテンツの消費が加速していることに気付き始めた転換点があったのでしょうか。

 

[00:11:11] シュウ フーン ソーシャルの登場だったと思います。ソーシャルの登場そしてモバイルがありましたが、それまでのアジアは常に西側を見て、顧客動向への影響を考えていました。そうですよね。たとえば、5 年前や 8 年前にアメリカでこういうことがあったので、アジアでも同じことが起きるだろうというのです。以前はそれがほぼ当たっていました。しかし、ソーシャルの登場で転換点が来たと思います。そしてモバイルです。これら 2 つについてはアジアで躍進が見られたからです。思い出すのは、初期に招待した講演者にソーシャルについて話をしてもらったのですが、当時の話の内容と、西側での旅行業界のカンファレンスでの内容を比較すると、アジアのほうがはるかにソーシャルが進んでいました。ある講演者を思い出します。途家 (トゥージア) の共同創業者であるメリッサは非常に聡明な女性で、現在は AI 分野を扱っていて、常に先進的なことに取り組んでいます。その彼女が言ったのは、すべてのソーシャルが旅行というわけではないが、すべての旅行はソーシャルだということです。その言葉で目が覚めた気分になりました。ソーシャルは本当に重要で、ソーシャルによりアジアの旅行が変わるのです。アジアはソーシャルが進んでおり、若いマーケットでもあるからです。それがアジアでの大きな、大きな変化につながりました。さらにモバイルが登場しました。これについては、マーケットによって発展の度合いがそれぞれ大きく異なっていました。たとえば、インドネシアやフィリピンのような国があれば、コロンビアやラオスなどもあり、後者は電気通信のインフラストラクチャがとても良いとは言えませんでした。しかし、それらの地域でモバイルファーストが始まると、都会から離れた村でも皆、携帯電話や iPad を使うようになりました。世代をひとつ飛び越えたのです。そうですよね。そこで、モバイル、ソーシャルの人口、若者、アクセスといった要素が集約され、そのタイミングですべてが変化したことがわかります。当時、Phocuswright のラム氏のコメントがあり、彼は動画が新しいテキストになるだろうと言っていました。彼のこの発言は、Web in Travel の初期のころ、確か創業から 3 年ごろだったと思います。そして現在、アジアにおいて動画は新しいテキストになろうとしています。これはさまざまな言語が使用されている地域だからであり、動画であれば、さまざまな言語の違いを乗り越えることができるからです。つまり、ソーシャル、モバイル、動画の組み合わせがアジアにおける大きな変革の端緒だと私は考えています。そのため、西側とは違うトレンドが始まったのだと思います。

 

[00:14:11] リチャード コッカー おっしゃるとおりです。そしてネットワーク効果もあると思います。ソーシャルとモバイルで、旅行者はモバイルとともに行動するようになりました。旅行者はネットワークを利用して、自分がどこにいて何を見ているかを伝えられるようになっています。動画や画像を使うことができます。そこで徐々に積み上がってくるのがネットワーク効果です。世界中のさまざまな場所へ旅する様子が伝わり、そうした場所の認知が向上します。

 

[00:14:35] シュウ フーン 旅行のネットワークが張り巡らされる感じですね。

[00:14:38] リチャード コッカー はい、そうですね。本当にそうです。はい。では、人々の旅行の仕方を大きく変えた飛躍的な進歩や節目と思われることについて、もう少し教えてください。ソーシャルについてはここで触れましたが、AI についても伺いたいと思っています。AI が飛躍的進歩や節目と呼べるものだとして、あなたの視点ではどのようにご覧になっていますか。

 

[00:15:00] シュウ フーン そうですね。まだ節目は迎えていないと思います。私は、ソーシャルが出てきたときやモバイルが出てきたときと同じだと思っています。今はまだ本当に始まりの始まりでしょう。違いがあるとすれば、今は供給のペースが速いことです。そうではないでしょうか。ほぼ、消費者とともに進んでいます。そうした状況です。アジアを例にとれば、消費者が変化を牽引してきました。消費者がソーシャルやモバイルを使えるようになり、動画を好んでいます。旅行業界はそれに適応したと言えるでしょう。実際に適応しようと先を争って動きました。ただ、今回に関しては、業界を取材してきた私から見ると、このテクノロジーについては業界と消費者が同じ歩幅で進んでいるように思えます。これは消費者向けのテクノロジーであり、モバイルのとき以上に多くの一般消費者を対象としたテクノロジーだからです。これはまだ本当に初期段階にあると思っていて、今後どうなるかは予想もできないのですが、私はジャーナリストとして、このテクノロジーがもたらす影響に非常に興味をそそられます。何でもそうで、Web in Travel を始めたときもそうでしたが、とても関心があります。そのため、自分でも勉強を始めました。実際にジャーナリストとしての仕事で使っています。他の人の使い方を知るうえでもその経験が役立ちます。消費者行動も理解しつつあります。そのうえで、すべての始まりの始まりだと思うのです。そういうことで、申し訳ないですが、旅行への影響については答えを持ち合わせていません。ただし言えることは、ソーシャルやモバイル以上に早いペースで変化が起きるだろうということ、多くの人が巻き込まれるようになり、これまで以上に大きなものになるだろうということです。

[00:17:03] リチャード コッカー はい。それが答えになっていると思います。大きな議論の中で浮上してきた疑問として、AI によって旅行から人間味が失われていくのかどうかということがあります。この疑問に対する答えがあると思われますか。

 

[00:17:14] シュウ フーン 実は今、人間革命をテーマにした講演の準備を進めているところです。これは興味深いテーマです。私がこのようなテーマを考えたのは、この新しいテクノロジーに関しては、私たちを人間たらしめているものは何かを問う必要があると感じたからです。この新しいテクノロジーはある種の概念に疑問を投げかけているからです。そうではないでしょうか。人間にはある種の思い込みがあります。機械では決してうまくできないことがあり、たとえば、機械は独創的な思考や創作は得意ではないと考えています。そうですよね。しかし、これまでの調査で、たとえば ChatGPT は独創性や創作に関して、人間ほどではないにしても 1% のスコアが出ていて改善されています。人間だけと思われていたものが 1 つなくなったと言えます。そのうえで、もう 1 つ、私たちが誇る人間らしい性質として、社会的な生き物だという点があります。だからこそパンデミック後には、私たちは皆で集まって抱き合い、お互いの絆を深めたいと思ったのであり、人間が持つこのような社会とかかわるスキルは優れたものだと思われてきました。この 20 年間ソーシャルロボットの取り組みが行われてきた結果、ソーシャルロボットに AI が搭載され、感情表現を学習できるようになり、感情的知性を持てるようになってきてます。同時に、人類は社会性を失いつつあります。なぜなら、私たちの生活は、おそらく新しい世代はさらに、ミレニアル世代以降は特に、デジタルネイティブとして育っており、現在の私たちはバーチャル、オンラインで過ごすことが多くなっています。そうですよね。その結果、ソーシャルスキルが大きく低下しています。そこで私が考え始めたのは、私たちを人間たらしめているのはどのような性質なのか、旅行に大きな変化をもたらす可能性のあるこの新しいテクノロジーを有効活用したいと思ったら、私たちは何に力を入れる必要があるのかということです。旅行業界は基本的に、今も非常に人間的な業界です。なぜなら、現時点では旅行ができるのは人間だけだからです。まだ旅行するロボットはありません。アバターが旅行をすることはあるでしょう。それでもまだ、旅行をするのは人間です。こうして私はこのテーマについて、何が私たちを人間たらしめるのかについて考えるようになりました。

 

[00:19:40] リチャード コッカー 私は AI の能力に期待するところがあり、この分野では 2 つの側面があります。1 つは業界側です。AI はビジネスの効率化に役立ち、企業が顧客にとってより意味のある体験を提供できるようになると考えています。ただ、私が好ましく思うのは、顧客側の話で、AI が消費者や旅行者の相棒になるというものです。

 

[00:20:03] シュウ フーン そうですね。この変化はアシスタントから相棒への変化です。ここで重要なのは親密さ、親密な関係の構築です。方法がわかっていれば、気味の悪い形ではなく、共感的な形で、直感的に親密な関係を築けることです。このような変化が見られるようになるでしょう。ただし、重要なことはつまり、私たちが旅行するのは、他の人に会いたいから、他の文化を知り、理解したいと思うからです。ここを忘れないことが重要です。これをコモディティ化してはなりません。この点をロボット化すべきではありません。だからこそ、旅行業界で働く人にとって、私たちを人間たらしめているものは何かについて考えることが重要なのです。私たちの笑顔、ハグ、そうしたものが本当に大切です。誠実さやホスピタリティがこれまで以上に重要になります。ご存知のとおり、消費者の期待は非常に高くなっています。大きな金額を支払っているからです。さまざまな要望が増えていきます。それに備えているでしょうか。課題に対応する準備はできているでしょうか。旅行業界には、解決すべき問題が数多くあります。それについて備えはできているでしょうか。テクノロジーを利用することで、人間の旅行体験の楽しさを低下させるような課題を解決できるでしょうか。

 

[00:21:31] リチャード コッカー それでは、旅行やホスピタリティにおいて、テクノロジーや AI に浸食されない部分はどこでしょうか。旅行において人間だけができることは何でしょうか。

 

[00:21:39] シュウ フーン 私はよく IT 関係の友人と話をしますが、その友人はいつも、人間はいわゆる 3K、きつい、汚い、危険な仕事をすべきでないと言います。

 

[00:21:49] リチャード コッカー なるほど。そうですね。

 

[00:21:51] シュウ フーン それを参考にするなら、ホスピタリティや旅行の要素できつい、汚い、危険に該当するものをすべて考えてみましょう。それらは機械に任せて、面白いところは人間がやるのです。でも、考えてみてください。考えてみると、たとえばフロント業務が思い浮かびます。温かい笑顔に気持ちの良い挨拶です。しかし今はそれをしているロボットがいます。まつげが長く、人間のように見えるロボットです。クリスマスにダブリンからシンガポールにやって来た友人がいましたが、彼女は空港のレストランで食事をしました。彼女はそのときのことを SF みたいだったと言っていました。彼女が座っている席の隣で機械が食器を片付けていたからです。空港では、隣を歩く機械もいます。私たちはすでに SF のような世界にいるのです。そうですよね。

 

[00:22:47] リチャード コッカー 実際のところ、人間性が残されるのは、旅行するという行動だけなのかもしれません。旅行への期待、空港を飛び立つとき、目的地に着いたとき、本当に気持ちを切り替えられたときの体験、それらはすべて人間に固有の体験だと思います。それが旅行を明らかに人間的なものにしているのでしょう。

 

[00:23:13] シュウ フーン おっしゃるとおりです。人間の感情は置き換えることができないものですね。人間の感情や期待といったものです。本当にそうです。夢を見る気持ち、不満、怒り、そして、さまざまな食べ物を味わう瞬間の感動や興奮など、そうしたものは確かに置き換えられないと思います。そこで、こうしたものを明確化する必要があります。たとえば、ハイパーキュレーションなどの提供です。あるいは、特別なおすすめ情報がさらに重要になるでしょう。昨日、シンガポールのツアー会社の人と話をしましたが、彼が言うにはすべてが非常にローカルになってきています。今ではあまり計画を立てずに行動することもできるようになっています。たとえばシンガポールのカンポン グラムにいるとして、たまたまショッピングモールにいて「ランチを食べたいな」と思えば「この近くで食事ができるところ」を簡単に調べられます。ローカルな体験をしやすくなっています。旅行者は安心して、よりローカルな体験、その場所ならではのディープな体験ができるようになっています。食べたい物など、行き先のリストを作っておかなくてもよくなっています。

 

[00:24:44] リチャード コッカー そうですね。ウェブによってそうしたことが可能になりました。AI 以前に実現されたことですが、AI によってさらにカスタマイズされ、効率化されることが期待されます。

 

[00:24:53] シュウ フーン はい、さらに進むでしょう。そうなります。さらに高度に、個人に適した形になると思います。

[00:24:57] リチャード コッカー 伺いたいのですが、あなたは多数の旅行会社の取材をされています。あなたの見解では、次に旅行テクノロジーの大手になる体制が整っているのはどこでしょうか。特に目を引かれた新興企業、中小企業はありますか。

 

[00:25:09] シュウ フーン 実はそれについては記事を書きましたが、大手企業は、エクスペディアから Booking.com、Trip.com、Airbnb まで、どこもすでにこの分野の取り組みを絶えず実施していますので、今後数年はその競争に大いに注目といったところです。大手はすでに積極姿勢だからです。どこもさまざまな取り組みをしています。どの企業にとってもこの 3 年はある意味準備期間だったと言えます。水面下で物事が進行していたようなものです。旅行をする人はほとんどいなかったからです。それでも水面下では多くのことが行われていました。今年は表面に出てくるタイミングになると思います。各企業が本当に素晴らしい機能を導入してくるのが見られるでしょう。大手企業はすでに力を入れています。そこで怖いのは、この流れは大手に有利なことです。ここにおいて、旅行業界のロングテールはどうなるでしょうか。人が旅をする理由は何でしょうか。そうですよね。大手企業のためではありません。もちろんです。人が旅をするのは大手チェーンがあるからではなく、旅を面白くしてくれる小さくとも素晴らしい企業があるからです。そうした企業がこの環境、さらに統合が進み、コモディティ化が進み、IT 偏重になっていく環境を生き抜くにはどうしたらよいでしょうか。極端な専門化が見られるだろうと私は考えています。たったひとつのことを非常に得意にするということです。Web in Travel が考えなければならないことはそういうことだと思います。私自身、他のだれよりも本当に得意とするひとつのことを考えなければなりません。

 

[00:27:10] リチャード コッカー 業界では非常に多くの変化を目にしています。ただ、あなたは 20 年以上の経験をお持ちです。AI 以外では、近い将来および長期的に見て、旅行サービス提供会社に影響する新しい技術革新についてどのように予想されていますか。

 

[00:27:23] シュウ フーン AI 以外で何があるかですか。それはわかりません。ひとりの旅行者としては、拡張現実 (AR) にとても興味があります。実は、仮想現実 (VR) のほうにはそれほど関心がないのですが、AR のほうは、実際の体験とどう組み合わさるのかに興味があります。テクノロジーがどうなるのか、どのような変革をもたらすのか、体験をどう拡張するのか、テクノロジーが私たちの空間に対する考え方、空間の使い方をどう変えてくれるのかということです。

 

[00:27:58] リチャード コッカー なるほど。AR の体験の拡張とは、ガイドブックのようにも利用できるといったことでしょうか。たとえば、スマートフォンを向けることで目的地の特定の場所を指定でき、その場所に関する情報が画面に表示されて、指定した場所がどのような場所か、歴史や事実がわかるといったことでしょうか。

 

[00:28:19] シュウ フーン そうですね。あまりに基本的なことですね。私自身は建物を見て、いつ建てられたかを知りたいとは思いません。知りたいのはストーリーです。音声を使うアプリケーションが出始めていますね。私にはわかりませんし、誰にもわかりませんが、オーディオツアーを誰もが利用するようになるかもしれません。長年そう言っていた人もいますが、今や誰もがヘッドフォンを使うようになっています。私としては、ストーリーテリングが面白いと思っています。たとえば、シンガポールには New World Tour というツアーがあります。これは徒歩で回るツアーで、ラブストーリーになっています。エリア内にラブストーリーがあるのです。失恋があり、悲しみがあり、通りを歩きながらそのストーリーを感じます。まるで映画の舞台を歩いているような感覚になります。とても身近に感じ、没入感があります。素晴らしい体験です。とてもパーソナルな感じがして、語られる物語を感じます。私が思うに、必要なのは「この建物は 1880 年に建てられました」という単なる情報よりも、過去から語り掛ける声、その場所に関する物語です。

[00:29:19] リチャード コッカー なるほど。ここで話がつながりますね。先ほど触れた、人間性が中心の旅行という話に戻ってきました。うまくいくかどうかですが、もちろんうまくいくでしょう。人はその場所の歴史や事実、関係する人物などを知りたくなります。しかし実際に、人の声を聴き、人の経験や、その経験がその場所の歴史や現在の環境にどうつながっているかを理解できれば、旅行者に大きなインパクトを与えるでしょう。このアイデアは素晴らしいですね。それでは、まとめとして、最後の質問です。リスナーに向けて、旅行テクノロジー分野のトレンドについていくためのヒントをいただけますか。

 

[00:29:51] シュウ フーン そうですね。記事を読むだけでなく、実際に体験して楽しむことです。今こそ、新しいテクノロジーを試すのが最高に楽しいときでしょう。楽しんで、自分で試してみてください。旅に出かけたら、そうした楽しいことをしている人がいないか周囲の人や場所を見回してみましょう。そういうところから新しいアイデアが出てくるものです。

 

[00:30:17] リチャード コッカー そしてもちろん、Web in Travel を読んで、最新情報をチェックしましょう。

 

[00:30:21] シュウ フーン もちろんです。カンファレンスにもぜひご参加ください。今年は新しい場所で開催します。アフリカです。ケープタウンで 3 月に開催します。素晴らしいでしょう。新しい挑戦の場になります。私はエマージングマーケットが大好きです。渋滞や混沌のあるマーケットが大好きなのです。いかがでしょうか。

 

[00:30:39] リチャード コッカー 素晴らしいですね。ありがとうございました。もちろん、リスナーの皆さんは最新のトレンドについては、引き続き Expedia Group がお届けする「旅行ビジネスをサポート」もお聴きになってください。シュウ フーンさん、本当にありがとうございました。ぜひ、またお話しさせてください。

 

[00:30:49] シュウ フーン ありがとうございました。楽しかったです。

 

[00:30:53] ブランドン エアハルト 先見の明のある方ですね。このように先を見通す眼があったならと思います。ゼロから Web in Travel を起業し、今ではアジア最大規模の旅行カンファレンスを開催、旅行テクノロジーなどの価値あるリソースを持ち、この変化を最前線で見ていらっしゃいます。このような方にご出演いただき、洞察に富むインタビューとなってよかったです。

 

[00:31:14] リチャード コッカー 本当です。お話しさせていただいて目が覚めるようでした。特に AI についてのお話では、旅行において AI では置き換えられない人間性の要素に関する考えを聞かせていただきました。IT 業界では生成 AI について長年議論されてきましたが、最近では、いわば大衆文化の時代の潮流となったと言えます。もう倦怠感もあると思いますが、彼女の見解は、私にとってこのテーマに新しい前向きなエネルギーを注ぎ込んでくれました。同じように感じてもらえているとよいのですが。

 

[00:31:39] ブランドン エアハルト もちろんです。お 2 人の未来についての考えをリアルタイムで聞くことができて、面白い思考実験だと感じ、自分でもより深く考えさせられました。近い将来に留まらず、この先がどうなるのか、日常の中にどう入ってくるのか。惰性に取り込まれて、次の瞬間、次の時間、次の日に何をすべきかばかり考えていると、すぐに視界が狭くなり、先が見通せなくなります。ここで学んだ教訓はたくさんありました。未来に目を向け、視野を広く持って、自分たちはどこへ向かいたいのかを考え直すことは重要です。私もこれをきっかけに心がけていきたいと思います。昨年後半には「旅行ビジネスをサポート」ポッドキャストとシュウ フーンさんの WiT のポッドキャストのコラボレーションで一連のエピソードを制作しました。グレッグ シュルツやハリ ナイールを始めとする Expedia Group のリーダーが登場しています。興味のある方は、「旅行ビジネスをサポート」のフィードからお楽しみください。気軽に楽しめる、わかりやすいインサイトとエピソードが満載の素晴らしいパートナーシップです。

 

[00:32:34] リチャード コッカー 今年もポッドキャストが続いていくのが楽しみです。

 

[00:32:37] ブランドン エアハルト 本当です。ぜひフィードの購読登録をして、興味のあるトピックを探してみてください。さまざまなテーマを取り上げています。そして、3 つのエピソードで大役を果たしていただいたリチャードさんに感謝します。

 

[00:32:49] リチャード コッカー こちらこそ、ありがとうございました。いつでも呼んでください。本当に楽しいので、また参加できるのを楽しみにしています。

 

[00:32:54] ブランドン エアハルト もうプロですね。いつでも大歓迎です。いつものように、ポッドキャストのご感想などは PoweringTravel@Expediagroup.com までメールでお寄せください。スペースなしの一語で「PoweringTravel」、アットマーク以下が「Expediagroup.com」です。また、ウェブサイトの新しいフォームなら入力が簡単です。Partner.Expediagroup.com をご覧ください。お時間があれば、ご利用のプラットフォームでポッドキャストの評価とレビューもお願いいたします。皆さんのような方にこの番組を知っていただくためです。お聴きいただきありがとうございました。エクスペディアがお送りする「旅行ビジネスをサポート」の次のエピソードでまたお会いしましょう。


プレゼンターのご紹介


イェオ シュウ フーン氏

Web in Travel、創業者兼マネージング ディレクター

イェオ シュウ フーン氏はアジア太平洋地域の旅行産業について長年取材をされている方です。新人記者からキャリアを始め、地域の重要な業界メディアタイトルを責任者としてスタートさせています。2005 年に WiT (Web in Travel) を創業して、テクノロジーによるアジア太平洋地域の旅行の変化に向き合ってこられ、急速に成長する変化の激しい地域で、旅行業に特化したメディアおよびイベント プラットフォームにより新しい場を創出しています。

リチャード コッカー

Expedia Group Media Solutions のインサイト アンド プラニング担当グローバルディレクター

Expedia Group 独自の検索データと予約データを調査し、マーケット分析を行ってパートナーの広告キャンペーン戦略、商品選択、ターゲット設定のための情報を提供するチームの責任者を務めています。サセックス大学の大学院で人類学、ウォーリック ビジネス スクールでは経営学の学位を取得。最近、家族でシアトル地区に引っ越しました。

ブランドン エアハルト

Expedia Group、マーケティング部門バイスプレジデント兼 「旅行ビジネスをサポート」メイン MC

Expedia Group の B2B 宿泊施設マーケティングの責任者であり、パートナープログラムの拡張に重要な役割を果たしてきました。戦略的イニシアティブをリードし、収益分析データの利用を促進することでパートナーの成功を支援しています。妻と旅行好きの子供と一緒にイリノイ州シカゴで暮らしています。



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